後列にいるやつ

翌朝、チャットの通知で目が覚めた。夜遅くまでいたカフェ併設のレンタルスペースのオフ会の写真が送られてきて、サムネを見た瞬間に胸がざわついた。後列に、俺の知らない顔がいる。フック:誰もその人を覚えてないけど、写真は確かにそこにある――。

「後列、誰これ?」って投げやりに書き込むと、既読がついてからカズが「見間違いだよ」と返してきた。アヤは「私写ってないし」と短く否定。スクショを拡大してみると解像度が粗く、影で顔が潰れてる。だから余計に、そこにいるようにも見えるし、居ないようにも見える。

気になって、俺は昔の自分の写真フォルダを漁った。いつも最後列にいる写真が多い。幼さの残る笑顔や、斜めにかかった髪。ふと気づくと、俺は昔の自分の写真を整理して何枚か消していた。理由は覚えてないけど、削除した痕跡がある。チャットにはもう一枚、元ファイルが送られてきて、ファイル名がparty_final_v2.jpgだった。

「撮ったのカズでしょ?」と聞くと、カズはしばらくしてから「いや、保存したときに一回だけトリミングした」と白状した。表向きは軽い編集の説明。でも、その「一回だけ」という言葉が頭に引っかかる。トリミングって言い方は、上書きやバックアップのことを隠す言い訳にも聞こえる。

別の友人が「保存のときにスマホが変な挙動してて、サムネが違う顔になってたよ」と言う。チャットのタイムスタンプは夜中の1時過ぎで、解散後に送られてきたものだった。スマホのサムネ表示が途中で変わる描写が続くと、俺は自分のスクリーンショットをもう一度見返した。たしかに、最初のサムネは俺の顔に近かったが、送られてきたファイルを開くと微妙に違う表情が合わさって見えた。

誰かが撮影順を妙に憶えていて、「最初に撮ったのは窓側で、最後に撮ったのが店奥」と断言する。ということは、その「最後」に位置していた俺の姿が複数の写真で混ざる余地がある。しかも、送られてきたファイル名はparty_backup.jpgやparty_final_v2.jpgが混在していて、同じチャットに複数の元データが並んでいる。誰かが画像を保存し直した形跡がある。

俺はついに保存履歴を見つけるために、カズに「撮ったときのファイル名見せて」と頼んだ。返ってきたのはスクショの一枚――ファイル一覧の小さな文字列が並ぶ画面。party_final_v2.jpgの隣に、見慣れた自分の名前が入っている別ファイル名が小さく表示されていた。思わず息を呑む。そこに並ぶ「同じ名前のファイル」が、どこかで上書きされ、別の画像と混ざっていることを示していた。

友人たちは口をそろえて「写ってない」と言う。けどタイムスタンプやファイル名のログは嘘をつかない。俺は自分の記憶と、誰かが保存したデータとが少しずつ入れ替わっている感覚に襲われる。最後にカズがチャットに一行だけ送ってきたメッセージ――そのファイル名、君の名前じゃないよ。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

目次