GPSの誤表示 → 自分が現在地以外に表示される

(HOOK)
深夜1時、いつものように家の明かりを消してスマホを置いたら、画面の地図に映る「自分」が駅前のベンチに座ったままだった。帰ってきたはずなのに、そこに灯る自分が消えない。ちょっと変だろ?

1
充電ケーブルを抜く癖があるんだ。抜くと安心する。母がキッチン越しに「スマホは記録を信じるな」って呟いた。笑って交わしたけど、画面の「自分」は動かない。地図アプリの青い点は、深夜1時の自分を示しているのに、点はベンチに貼り付いてる。ベンチには落書きがあって、いつも写真に撮ってしまう場所だ。

2
次の日、位置履歴ログを見た。過去の夕方、18時台にそのベンチと古い交差点の角で自分が止まっている。写真のタイムスタンプが微妙にズレてる。足跡を撮るのが癖だから、同じ時間に撮った写真とログを照らし合わせる。合わない。友人に場所の話をすると、「そこ、もう誰もいないよ」って言われた。違和感が増す。

3
スマホの位置が時々数メートル跳ぶのも前からあった。みんなは電波のせいって言うけど、飛び方が妙に規則的なんだ。充電ケーブルの差し込み口、特定の角度でケーブルが当たると、画面の点が微かに揺れる気がした。ケーブルに小さな痕があるのに気づいたのは、その日だった。

4
駅前の監視カメラ映像を見に行った。映像は18時台だけ、ずっと砂嵐みたいに抜けていた。映像の抜けと、ログの固定が重なって見える。その交差点の角には昔からポールがあって、誰かがよくそこを撮る。俺も写真を残してる。写真とログが齟齬を起こす瞬間が、何度もあった。

5
家族の態度が変になってきた。母は話の途中で目をそらし、俺の写真を見る回数が増えた。兄がスマホを触るときだけ部屋の空気が冷たくなる気がした。友人は「お前、あの時間にいなかったって、みんな覚えてるよ」と繰り返す。誰かが記録を頼りに話している。だけど俺の身体はここにある。そう思ってた。

6
念のため、その交差点に行ってみた。ベンチに座り、周りを見渡す。人は通る。風が落書きを揺らす。誰も俺を見ない。写真を撮ると、いつもの癖で足元を撮る。その写真はすぐにスマホに保存された。だけど帰って地図を開くと、画面の「自分」は18時台のまま。俺の実際の帰宅と、地図上の「自分」は並行して進んでいる。

7
ある夜、母が台所で古いアルバムをめくっていた。そこには、同じベンチに座る人の写真が何枚もあった。日付が並んでいて、ある夕方だけが繰り返されているように見える。母は「あの日からね」とだけ言った。理由を聞いても答えない。写真の端に、見慣れた充電ケーブルの白い端子が写り込んでいた。

8
自宅の薄暗い部屋で、俺は地図をずっと見ていた。位置履歴ログのその一点は、変わらないまま。削除しようとしたけど、操作ができない。画面の「自分」は、18時台の光を背にしてベンチに座り続ける。母が近づいてきて、静かに言った。「記録の中の君はもう動かない」

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