無名のエアドロップ

(HOOK)深夜、スマホから来た見知らぬ通知で目が覚めた。送信者が空欄のエアドロップ、添付は俺の枕元の写真――それを見た瞬間、部屋の空気が少しズレた気がしたんだ。

スマホはいつもテーブルに裏返して置く。画面を見られたくないクセで、母さんには「几帳面だね」って笑われる。だがその夜、裏返しのまま手を伸ばして画面を確認すると、通知のプレビューには俺の部屋の一角が写っていた。枕、机、ラジオの小さな赤いランプ。時間は深夜二時。つぶやいた。「誰だよ…」

翌朝、職場の休憩室で同僚に見せると、笑って「またバグじゃね?」って返された。だが二日後、また来た。今回は玄関の靴箱の上から撮った写真で、俺のスニーカーがちょっと斜めに置かれていた。俺は靴を必ず二度かける。昔からのクセだ。写真のスニーカーの紐は一度だけ結ばれている。誰かが俺のクセを知らないはずなのに。

さらに不可解なのは、受信直後にスマホの画面が一瞬ちらついて、通知表示が一回だけ消えかけること。バグだろうか、と思った矢先、画像の隅に小さな靴の影が写り込んでいるのを見つけた。足音の影――偶然か計画かは分からない。でもその夜、ラジオでいつもの番組が流れている時間に、また通知が入った。俺はいつもその番組を口笛で歌って寝る。誰かが時間を知っている。

母さんが電話で「部屋の配置、変わってない?」と言った時には冷や汗が出た。彼女の目には変化はないらしいが、俺は確かに何かが違っている気がしていた。部屋を見回すと、SNSに非公開で保存してあった一枚の写真が俺の端末から消えている。確かに保存していた。なのに見当たらない。思わず震えた。

ある朝、最も嫌な写真が来た。休憩室で昼寝している俺の横顔を撮ったものだ。机の下から覗き込むような角度で、俺は口を少し開けていた。送信者欄はやっぱり空欄。だがよく見ると、写真の右下にごく薄く、同じ構図の別の写真が額縁に貼られているのが写っていた。額縁の写真は――俺がSNSで非公開にしていた、あの一枚と同じ構図だった。

追い詰められて家に帰ると、玄関の靴箱に見覚えのない一足が混じっていた。靴は俺の左足と反対側に寄せられている。俺は二度鍵をかける癖がある。鍵はいつも二度かけてあるはずだ。だがその日は一度目のかけ方が雑で、内側の小さな傷が消えていた。誰かが来て、そっと元に戻したような痕跡だった。

最後に届いた写真は、早朝の窓辺を外から写した一枚だった。窓ガラスの反射に、うっすらと影が映っている。見慣れた影だ。俺は手を止めて、スマホを裏返しに置いたまましばらく動けなかった。その時、ふっと思い出したんだ。母さんが昔言ったこと――「あなたが急に変わってしまった日、私は葬式の席であの写真を見たわね」――その日付と、エアドロップが最初に来た日が重なっていることに気づいた。

ベッドに戻ると、また通知音が鳴った。送信者は空欄、添付は俺の枕元。だが今回は違う。写真の向こうに、そっと置かれたもう一足の靴が見えた。俺の靴箱に混じるそれは、俺の左足側にぴったり寄せられていた。画面の隅に、見覚えのある非公開写真の角がほんの少しだけ見える。最後に、誰かが残していった小さな文字――「よくやった」――それは写真の影に隠れるように薄く刻まれていた。

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